有機農業を始める以前

私は「育苗」といって野菜や稲、花などの苗を作る仕事を中心に色々な野菜の栽培などをJAや農業生産法人でやってきました。
栽培方法に特色のあるところなどもあり、農薬を極力減らすような取り組みを行っているところもありましたが、無農薬でやっているところはありませんでしたし、私自身も無農薬栽培などできるわけがないと思っていました。

 その一方で農薬や化学肥料を使う栽培に、行き詰まりも感じていました。

 農薬にも種類があり、そのひとつが「殺虫剤」です。
 虫というのは同じ農薬を何度も使っていると、その農薬に対して抵抗性がでてきて、だんだんと効かなくなってきます。少し成分のちがうものを使うか、より効果の強いもの(殺虫効果の高いもの)を使用する、また使用する回数を増やすなどして、対応しなくてはなりません。
 しかし、農薬というのは法律で野菜ごとに使用してよい薬や回数が定められており、簡単に薬をかえたり、回数を増やしたりすることができにくくなっています。

 農薬を減らす取り組みとして、ここ数年で注目されてきたのが「生物農薬」といわれるもので、害虫に対しての「天敵」となる虫などを飼い、その天敵に害虫を駆除してもらうというものです。
化学薬品を使わなくてよいので、非常によいものだと思うのですが色々と問題もあります。
  まず、天敵に住み着いてもらうためには、ハウスのように施設内でないと難しいですし、逃げないようにネットを張ったり、天敵が好む植物を植えるなどして、住処を作ってやることも大切です。そのようにしても、なかなか思うように定着しなかったり、害虫駆除効果が不十分だったりします。
 天敵が標的とする害虫というのは限定されていますので、すべての害虫に有効ではなく、標的外の害虫が出てきた時には、農薬を使うこともありますが、今度は天敵が影響を受けない(死なない)農薬にしなければならないということになり、なかなか難しいところです。

 色々と問題はありましたが、私自身は丈夫でよい苗を作ることが基本と考え、そこに取り組んできました。
小さくて弱い苗を扱う育苗という仕事は、毎日の水遣りや温度管理など人為的な操作ひとつで大きく苗の成長が変わってきますし、その後の生育にも影響しますので、細かな観察と適切な判断、慎重な作業が求められます。そうした積み重ねを経て、私の中で行き着いたのが「よい苗をつくるために一番重要なのが土である」ということでした。
育苗では「培養土」というものを使い苗を育てますが、これが良いものであれば、水遣りなどもさほど手がかからず良い苗に育ちますし、悪いものであれば、どんなに手をかけたところで苗の出来はしれているということです。
大事なのは小手先の技術ではなく、大元の土であるのだとはっきりしたところで、育苗という仕事に一区切りつけました。